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「見る」から「体験する」へーー体験型エンタメの中でも、いま熱量の高いジャンルが「マーダーミステリー(マダミス)」だ。今回のえくすぺ談話室のゲストは、東京・立川と吉祥寺でマーダーミステリー&ボードゲームカフェ「JOLDEENO(ジョルディーノ)」を営むジョルさん。弁護士志望からバンドマンを経て店主になった異色の経歴、店舗運営のリアル、そして「圧倒的な没入体験」というマダミスの本質まで、たっぷり語ってもらった。(聞き手:永易レオ)

ジョル
マーダーミステリー&ボードゲームカフェ「JOLDEENO(ジョルディーノ)」(立川・吉祥寺)代表。株式会社これからミステリー執行役員。店舗運営、公演企画、作品制作、GM(ゲームマスター)育成などに幅広く携わり、「物語体験をもっと身近に、もっと面白く」をテーマに日々挑戦している。

上海で受けた、「やめようかな」と思うほどの衝撃

――このインタビュー企画では毎回ゲストに伺っているんですが、ジョルさんの「ここ1年でいちばんの思い出体験」は何ですか?

ジョル:中国・上海にある「UMEPLAY」ですね。「あなたと私のプレイ」という意味で、いわゆる上海型のイマーシブ体験です。作り込まれた世界の中にいきなり放り込まれて、キャストさんと一緒に60分間、物語を体験するんです。

――いわゆる謎解きなんですか?

ジョル:いや、謎解きというより「物語を体験する」ものですね。行ってみて、衝撃でした。「僕はもう(この仕事を)やめようかな」と思うくらい素晴らしかった。まず設備がすごい。日本ではありえないんですが、ビルのエレベーターをエンタメ用に契約しているんですよ。ディズニーのタワー・オブ・テラーみたいなことができる。しかもキャストは全員オリンピック選手かというくらいの身体能力で、イマーシブの演技もうまいから、僕らをちゃんと物語に乗せてくれる。すべてが高水準で「これは日本ではできないな」と思うくらい、めちゃくちゃいい体験でした。

――そうなんですね。今度行ってみようと思います!

弁護士志望から、バンドマンへ

――ここからは、ジョルさんのこれまでの来歴を伺いたいです。もともとバンドマンをされていたんですよね。

ジョル:そうなんですよ。当時の僕はロースクールに通っていて、弁護士を目指していたんです。そのころ東日本大震災があって。当時は息抜きに友達のバンドを手伝うくらいの感覚だったんですが、ライブに出ているうちに「僕、世界でいちばんうまいんじゃないか」と勘違いしまして(笑)。勉強しながらこれだけできるなら、一本でやったら世界を取れるんじゃないかと。震災もあって「人生一回きりだ、飛び込んでみるか」と、卒業したその年に受けるはずだった試験も全部やめて、バンド一本に絞りました。

――弁護士になる予定だったのに、思い切りましたね。

ジョル:親は呆れてましたよ(笑)。ただ、その裏には挫折もあって。一緒にゼミを組んでいた中に東大主席の子がいたんです。何をしても勝てない。勉強時間は僕より多いのに、何でもできてしまう。「人類にはこんなに勝てない奴がいるのか」と挫折を味わったところに、ドラムなら勝てるという場所が見つかった。逃げた部分もあったのかもしれません。

――バンドは何年ほど続けられたんですか?

ジョル:33歳まで、10年くらいですね。最後のバンドは「これで最後にする」と決めて、それまでのノウハウを全部使って「絶対に売れる」を目指しました。結果、やりたかったことはほぼ全部できたんです。雑誌の裏表紙に載る、新宿の大きなスクリーンに映る、全国を回る。でも給料は本当に安くて。事務所には武道館クラスのバンドもいましたが、僕の求める生活には「ゴールデンボンバーさんみたいに一発当てないと難しい」と言われて。そんなとき、ジストニアという神経の病気を発症したんです。簡単な動きができなくなってしまう。「もうこれ以上は続けられない」と、33歳の8月に区切りをつけました。

「俺でもできそう」——ノウハウゼロの開業

――そこからジョルディーノの立ち上げは、どういう流れだったんですか?

ジョル:中高の同級生に話をしたら「一緒にやろう」と言われて。何をやるか考えていたとき、たまたま人狼ハウスさんの渋谷店に行ったんです。平日なのに人がいっぱいいて、用意するものはドリンクと机とゲームマスターだけ。「俺でもできそう」と思ってしまって(笑)。人狼だけだと難しそうだから、好きだったボードゲームも一緒にやろうと。同じ年の12月、何の知識もないまま立川に店を出しました。

――会社員になる道は考えなかったんですか?

ジョル:なかったですね。とにかく自分で何かを起こそう、自分で動いた結果が自分に返ってくるほうがいい、と。

――立川を選んだ理由は?

ジョル:これが悲しい話で(笑)。当時、国内でいちばん大きいジェリージェリーカフェさんが、立川にはまだなかったんです。ところが物件を確定させた後に、立川出店の情報が出て。しかも調べたら、うちの物件から徒歩30秒(笑)。向こうはノウハウの塊、こっちは何も知らない素人。「どうしよう」となったんですが、決まってしまったものは仕方ない。だったら別のやり方をやろうと。うちはボードゲームの知識では敵わないから、キャスト——アルバイトさんがどれだけ魅力的かをとことん追求しました。「この人のルール説明うまいな」という、人を売りにする店にしようと。その黎明期からやってくれている2人は、8年目になる今でも働いてくれています。

――最初からお客さんは入りましたか?

ジョル:地獄でしたよ(笑)。最初の1カ月は、毎日ボードゲームを買ってはルールを読む日々。その間に来てくれた1人2人が常連さんになってくれるのが2〜3カ月目。常連さん同士をつなげてグループを作っていって、12月にプレオープンして、5月ごろにはそれなりの集客で安定しました。

遊んだ翌日に「マダミスやります」と宣言

――いまはマーダーミステリーがメインですが、転換点はいつだったんですか?

ジョル:開店から半年くらいのころ、「約束の場所へ」という作品がゲームマーケットに出たんです。遊んでみたら、人狼とミステリーの掛け合わせみたいで。もともとミステリーが大好きだったので「これが、やりたかったボードゲームだ!」と。遊んだ次の日には「ジョルディーノ、マーダーミステリーやります」とポストしていました。ポストしちゃえば、作るしかないので(笑)。

――有言実行で自分を追い込むスタイル(笑)。最初は既存の作品を仕入れたんですか?

ジョル:いや、「これは絶対に自分たちで作ったほうがいい」と。当時の常連さんに「マダミスにはまって作ってみたい」という方がいて、一緒に作ったのが初期作品の「豪華客船と黒い部屋」です。高難度を謳ったこともあって、わざわざ立川まで、めちゃくちゃ人が来ました。そこからいろんな作品を扱うようになっていきましたね。

――吉祥寺の2号店はどういう流れで?

ジョル:ちょうどコロナです。店舗運営ができなくなったとき、マイナスなことを考えても仕方ないので、マダミス用の2店舗目を作ろうと。当時は没入のために世界観をまるごと作り込む「劇的マーダーミステリー」が流行っていたんですが、作品ごとに舞台を作り直すのは大変じゃないですか。だったら巨大スクリーンに背景を映して、作品ごとに世界観を変えられる店舗にしようと。おかげさまで反響も良くて、こけら落としで出した「シュレーディンガーの密室」などは、今でも超人気作として続いています。

マダミスの魅力は「圧倒的な没入体験」

――ズバリ、ジョルさんはマーダーミステリーのどんなところが好きですか?

ジョル:もう、圧倒的な没入体験。この一言に尽きます。当初は僕もマダミスを「ミステリー」として見ていたんですが、やっていくうちに「そこじゃないな」と。誰かになって物語を追体験する。しかも、たった7人のためだけに空間を作って、ゲームマスターが4時間も5時間もつく。普通は考えられないことですよ。いろんなエンタメを見て、1周回って「これはすごくいい体験なんだ」と分かりました。

――なるほど。

ジョル:マダミスって、全員が主人公になるように作られていることが多いんです。人生では99.9%の人がモブというか、映画の主人公を「見る」ことはあっても、主人公に「なる」ことはまずない。その人の人生を全力で生きるカタルシス、物語の焦点が自分に当たる快感を一度覚えてしまうと、どっぷりはまる。これはマダミスだからこその、唯一無二の体験だと思っています。

――その観点はなかったです。めちゃめちゃ納得しました。

店舗の成否は「店長」で決まる

――ジョルさんは、業界でもっとも多くの形のマダミス店舗を見てきた方だと思います。店舗運営で特に大事なことは?

ジョル:これはもう、ひとつしかないです。店長が仕事ができるか否か。マダミスはいま、ものすごく属人性が高いんです。作品を仕入れても、それを従業員に下ろす作業が必要で、店長がちゃんと管理できないとお客様に迷惑がかかる。もうひとつは売上です。マダミスは0か1かで、1人でも席が埋まらなければ開催できない。その1を埋めるために、どれだけ泥臭いことができるか。決まった時間にXで募集をかける、オープンチャットで声をかける、DM営業をする。泥臭い作業をやり切れるかどうかですね。

――そういう店長は、なかなかいない存在ですよね。

ジョル:いないです。直営も含めて60店舗ほど見てきた上で言いますが、マジでいない。だいたいみんな病みます。売上を追いながら、現場の育成もやる。それを毎日続けるのは本当に大変なので。だから将来的には、UZU TOKYOさんのようなゲームマスターがいなくても成立するモデルが広がって、属人性が下がるビジネスモデルが出てきてほしいと思っています。

売りは「ジョル」。そして女性目線の「プリンセスマーケティング」

――ジョルディーノならではのこだわりは?

ジョル:極論を言ってしまうと、ジョルディーノの売りはジョルだと思っています(笑)。代表がこれだけ現場に出ている店はあまりない。現場に出るから、エンドユーザーの声も、作品を届けたときの反応も、いちばん分かる。優秀なスタッフはたくさんいて、ゲームマスターの腕は僕より上の子もいます。でも彼らはGMのプロであって、マダミスを広げるプロではない。マダミスを広げたいという思いは、誰よりも強い自信があります。

――扱う作品はどう選んでいるんですか?

ジョル:まず、作者の処女作が大好きなんです。万人受けしなくても「尖ってるな」と自分に刺さった作品は取り扱う。次に、従業員が「やりたい」と言った作品。GMが楽しいと思える好きな作品は大事にしたい。そして3つ目が、当時からずっと意識している「プリンセスマーケティング」。女性のお客様にしっかり届けられる店にしたいので、女性目線で「これはちょっと嫌だな」という作品は扱いません。センシティブな表現は特に、男性がスルッと読み飛ばせるところで女性は引っかかることが多い。そこをケアできている作品が、僕は大好きなんです。

推理のコツは「凶器・犯行時刻・動機」

――視聴者の方からの質問です。「マーダーミステリーの推理のコツを教えてください」。

ジョル:これ、難しいんですよ。本来のミステリーでは、動機は推理する要素じゃないんです。小説でも、動機は犯人が捕まった後の独白で明かされたりしますよね。客観的証拠でどれだけ詰められるかがミステリー。でもマダミスは人間ドラマがプレイヤー同士で形成されるから、動機が大事だったりする。なので僕がよく言うのは、まず客観的証拠である「凶器」と「犯行時刻」、そこに主観的な要因の「動機」を加えた3つを洗いましょう、と。この3つを綺麗に精査すれば、大体最後の2択までは行けます。あとはひらめきと、犯人のロールプレイ次第ですね(笑)。

新作「季節の風」——物語を"体験"で泣かせたい

――最後に、告知があればお願いします。

ジョル:青春没入型ストーリープレイング「季節の風」を制作しました。6人・6時間、もとは中国の作品を、完全に日本向けにローカライズ・マスタリングし直したものです。2015年の海辺の町を舞台に、バンドを組む若者たちの青春物語。僕が思っていた「プレイ」を全部詰め込んだので、これが刺さらなかったら僕の刺さるポイントとは違うかも、というくらい作り込みました。

――どんなところを意識されたんですか?

ジョル:中国のマダミスには「泣かせる」作品が結構あるんですが、僕は文章ではなく"体験"で泣かせたいんです。泣かせるだけなら小説でいいじゃないですか。体験の中で泣く機会って、確かにあまりない。そこをすごく意識しました。4月後半から公演していて、ずっと高評価をいただいています。ぜひ遊びに来てください。

編集後記

永易レオ:業界の担い手インタビューの第一弾、マーダーミステリー専門店ジョルディーノ代表のジョルさんでした。日本のマーダーミステリー業界の立役者のお一人で、長きにわたって業界を見てこられたからこそのお話がたくさん聞けました。もともと弁護士志望だったところからバンドマン〜マダミス店立ち上げと、行動力の凄さが際立っていましたね(笑)。ここには掲載していない、「これからミステリー」時代のお話もあるので、ぜひノーカット版のYoutube動画も覗いてみてください^^


▼ノーカット版はえくすぺTVで

【前編】えくすぺ談話室|ジョルさん(ジョルディーノ代表)これからミステリーの今、マダミス専門店立ち上げまで、マダミス店舗運営の裏側

【後編】えくすぺ談話室|ジョルさん(ショルディーノ)今後のマーダーミステリー市場は?、マダミスの推理のコツ、没入型ストーリープレイング

筆者: 永易 レオ|体験王

株式会社エクスペリフルCEO/えくすぺ編集長/職業:思い出クリエイター。
「人生の豊かさは、思い出の総量で決まる」を信念に、マーダーミステリーカフェ「探偵キャンプ」や謎解きカフェ「はてな珈琲店」など体験型エンタメを全国展開中。